『満月珈琲店の星詠み⑤~秋の夜長と月夜のお茶会~』

  • 2025年8月15日
  • 2025年8月18日
  • 小説
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 今日もお疲れさまでした。

 今日は相手に言いたいことがあるのに言えない。そんなもやもやを解決できるかもしれない言葉を紹介します。

ハチワレ猫(サートゥルヌス)

他の誰とでもなく自分自身と話し合って納得のいく結論を出すのですよ。まず、自分を説得して、自分の結論に納得することが大切です。そうして自分の人生に責任を持つんです

 望月麻衣(2023).『満月珈琲店の星詠み~秋の夜長と月夜のお茶会』 株式会社文藝春秋

 作中に登場する土星の遣い、サートゥルヌスの言葉になります。他者と話し合うことも大切ですが、自分自身と話し合うことも大切だと伝えています。

<言葉についてのあらすじ>

 真中百花は生まれ育った淡路島でいま現在は一人暮らしをしている45歳の女性。両親は百花が幼稚園の時に離婚しており、父は家を出ていき、長い間母と2人で暮らしていた。

 父が出ていった後は今までの生活が一変し、母が働きに出たものの、明らかに余裕のない生活となっていた。また、島という限られた土地では両親の離婚というのは結構なニュースで在り、常に周囲から同情と好奇の目にさらされてきた。

 高校生の時、塾に行く余裕もない環境であったが、それでも勉学に励んでいた。そんな時に隣人からこう告げられる。「良い学校に行くのはいいけど、お母さんが大変よ。あなたのお母さんね、勉強頑張るあなたを見て家を出ていくんじゃないかって心配してたの。手に職をつけるためにも島の看護学校に進学して島内の病院で看護師をするのはどう?」と。

 自分は母を喜ばせたいと勉強を頑張っていた。しかし逆に母を不安にさせていたのだ。母は常に「手に職をつけておけば良かった」とも話していた。これは母の仕込みなのだろうと、瞬間的に反発を感じたが、確かに不透明な将来よりは良いだろうと地元で看護師になることを決めた。

 それを母に伝えると涙を流して喜んでいた。それを見て百花は思った これで良かったんだ と。

 百花は看護師になり、母は仕事をやめた。母との二人三脚の生活は順調だった。

 しかし変化は訪れる。23歳の時、患者の男性と恋をした。初めての恋だった。彼の実家は静岡だったが、この時は島に建設工事の仕事に来ていた。一時的な恋だろうと思っていたが、彼の現場が終わっても、関係は終わらなかった。そしてお互いに忙しくなり、会うのが難しくなってきたころ、彼にプロポーズをされた。

 彼は静岡で家を建てて一緒に暮らそうと話す。しかし百花は母のことが気にかかる。自分がいなくなったら無職である母はどうなるか。考え抜いた末の結論は、「彼と結婚したい」と母に正直に伝えることだった。

 ある夜のこと、母は縁側に座って月を眺めていた。いきなり切り出すのは気が引けてしまい、世間話をしようと声をかける。何を物思いに耽っているのか尋ねると、母ははにかんで言う。「父と別れた後、私は何度も死んでしまおうかと考えた。でもあなたがいたからここまで生きてこれた。私の人生辛いことが色々あったけど、あなたがいてくれて本当に幸せだ。ありがとう」と。

 その言葉を聞いて、百花は何も言えなくなった。母を捨てられないと強く思った。

 それから約20年、母と暮らした。寂寥感はあれど、充実していた日々だった。

 母の病気が判明したのは1年前のこと。余命がいくばくもないことを知り、仕事を辞めて母の世話に専念した。

 母が死に、これからどう生きていこうかと思っている時に百花は満月珈琲店という不思議なトレーラーカフェに導かれる。

 そのカフェで百花は猫の店員たちに自分の想いを語る。「今まで溜め込んできた人生だった」と。周囲から遠慮のない言葉をぶつけられた時も我慢して、結婚したいことも言えなかった。

 しかし百花は猫たちとの対話で今まで知らなかった母の想いを知ることになる。母は百花が我慢していることを分かっていた。そして何でも話してほしいとも思っていた。母は娘に申し訳ないとずっと胸を痛めていたのだ。

 言葉に詰まる百花に店員のハチワレ猫は問う。「あなたは自分が犠牲になったと思いますか?」と。
 それは少し違う。看護師になったこと、結婚しなかったことを後悔しているかというとそうでもない。自分で選んだことだ。

 でももやもやした感覚はずっとある その正体は・・・

 話し合わなかったこと

 母とだけではない。彼にも「母のために島を出たくない」と伝えてみればよかった。結果は同じだとしても話し合えばよかった。どうせ分かってくれない、ダメに決まってると決めつけていた。

 逆の立場なら、そんな気遣いをされてもうれしくないのに・・・

 俯く百花にハチワレは優しく言う「よく気付かれましたね。これからの人生は、ちゃんと話し合ってください。それは他ならぬ自分自身とです。自分の人生に責任をもつのです」

 それを聞いて百花は思う。今まで自分で決断したふりを続けてきたのだ。それでいて、母のせいだと心の中で責任転嫁していた。

 自分の人生に責任を持つ— その言葉が、ズシンと自分の中に響いた。

<まとめ>

 言いたいことがあるのに、言っても無駄ではないか、言ったら嫌われるのではないかと言い出せずに自分の想いを溜め込んでしまう人は多いと思います。ではなぜ言わないようにブレーキをかけてしまうのか。それは相手に話す前に自分自身としっかり話すことができていないからではないでしょうか。

 相手に伝えたいことがある。でも勇気が出ない、伝えるべきか迷う。そういうときはまず自分に問いかけてみましょう。「伝えなくて本当に良いのか。後悔しないのか。相手も本当は正直に話してほしいと思っているのではないか」「このまま我慢をし続けて、自分は疲弊しないか、苦しくならないか」

 自分との対話をおろそかにしてしまうと、どうせ言ってもダメだろう、言われた相手も迷惑だろうと勝手に答えを決めつけて溜め込んだまま終わってしまうと思います。果たしてそれで自分の心は納得してるのでしょうか?

 自分の結論に納得できないまま日々が過ぎ去ると、自分はこんなに我慢してるのにと徐々に被害者意識が強くなっていきます。最終的には溜め込み過ぎて抱えきれなくなり、疲弊して倒れてしまうか、相手に爆発させてしまい、悲惨な結末となってしまうかもしれません。

 言いたいことを言わないのが悪いことではありません。大切なのは自分が下したその決断に自分自身が納得しているかどうかだと思います。迷っているのなら他ならぬ自分自身と話し合いましょう。

 

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