『満月珈琲店の星占い』

  • 2025年8月17日
  • 2025年8月18日
  • 小説
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 今日もお疲れ様です。

 あなたは相手に言いたいことが言えずにつらい思いをしていませんか?そんな人は自分の心を大切にできていないかもしれません。

 三毛猫のマスター

 「起こる出来事はすべて、心が先なんです

 「心を大切にしなければ、なにもかもうまくはいきません

 「人はどうしても取り繕わなければいけない時も多いでしょう。ですが、どうか自分の心だけは偽らずにいてください

 望月麻衣(2025).『満月珈琲店の星占い』 株式会社ポプラ社

『満月珈琲店の星詠み』シリーズでよく取り上げられている自分の心を大切にという言葉です。

<言葉についてのあらすじ>

 渡瀬真帆は中学生の女の子。京都にある音楽に特化した高校にこの春から入学するため、母娘で仙台から京都へ越してきた。

 母は快活で宝塚の男役のような美しさをもつ人で、外科医をしている。母は真帆の高校進学に合わせて、京都の病院へ転勤することになった。

 父は5年前に交通事故で他界している。当時は明るい母が別人のように落ち込み、『医者なのに、一番大切な人を助けられなかった』と日々嘆いていた。

 それから母はいっそう医師としての仕事に打ち込むようになったと真帆は感じていた。

 真帆が仙台から遠い京都にある学校を志望したのは、母から離れたいからだった。しかし、母は京都まで一緒についてきてしまった。

 引っ越し当日の夕方、母が仕事に呼ばれ、一人になった真帆は近くの鴨川の畔でフルートの練習をしていた。受験を頑張っていたときはもっと良い音が出たはずなのに、今はどうにも鈍い音しか出せない。

 気が付くと近くに人が近づいてきた。見ると、身長2mあるような2本足で立つ大きな三毛猫で、自分を満月珈琲店のマスターであると言った。気づくと、近くにトレーラーカフェが停まっていた。

 満月珈琲店で真帆は出されたバナナホットケーキを食べる。帰り際にマスターは「そのホットケーキには魔法を込めておきました。その効果を感じたら明日もここに来てください」と話した。

 翌日、起きた母が眠そうに「今日は私も休みだし、一緒に京都を観光しよう」と言ってきた。そこで不思議なことが起こった。

 『いいよ。無理しないで』と言おうとしたのに「本当に?行きたい。嬉しい」と思ってもみない言葉が自分の口から出てきたのだ。

 京都観光中、父の話になった。父は真帆のピアノの発表会の日に交通事故にあった。外せない仕事があり、終わったら急いで会場に行くからと話した父に対して、真帆は「絶対に来てね」と言っていた。

 あの後から感じていた。父が死んだのは自分のせいだと。「絶対来てね」なんて言わなければ・・・。

 そして母も自分のせいで忙しく働かないといけなくなった。現在母には恋人がいた。ようやく父の死から立ち直ってできた恋人だ。それなのに自分がいると自由に会うことができない。

 「ごめんなさい」

 「お父さんが死んだのも、それでお母さんが苦しんだのも私のせいだよね。そして私がいるとお母さんは自由に生きられないよね。だから・・・遠く離れたこの京都に行こうとしたのに」

 自然に口から出ていた。母にずっと言えなかった言葉。言いたくても言えなかった言葉。言えたのは、マスターの言う魔法のおかげなのだろうか。

 それに対し、母は言う。

 父が死んだのは真帆のせいじゃなくて、事故のせい。
 私が仕事を頑張ったのは現実逃避のため。つらかった父の死を忙しく働いていると忘れられる気がした。
 そして転勤が恋人との別れとは思ってない。これで疎遠になるようなら、それまでの関係だったということ。

 母は涙して続けた。「働いている男女なんて離れてるくらいがちょうど良い。でも子どもはそうじゃない。一緒にいられる時間は人生で限られてる。真帆が京都に進学するって言ったとき、そんな大切な時間を失ってたって気づいたの。だから今度は仕事を抑えて真帆との時間を大事にしたい」

 「私は真帆のおかげで生きていられる。私は真帆に『ありがとう』って思ってる。だから『ごめんなさい』なんて言わないで・・・」

 その言葉を聞いた時、真帆の目からは堰を切ったように涙が溢れた。

 その夕方、再び満月珈琲店を訪れる。

 マスターは話す。

 「自分の心を大切にしてください」

 本当は母と一緒にいたいのに、その心に蓋をしていた。それは母のためだと自分に言い聞かせて。堅い甲羅の中に自分の心を押し込んで、誤魔化し続けた。

 今まで母のためと思って、思ってもいないことばかり口にしていた。

 でも今回の出来事で、母と一緒にいたいという自分の心に正直になることができた。

 再び鴨川の畔で吹いたフルートは、とても澄んだ音色をしていた。

<まとめ>

 人間関係、どうしても取り繕わないといけないこともあります。しかし、相手が長く付き合っていく必要のある関係であったとき、本音で話せないままだとお互いに苦しくなってしまうでしょう。

 特に家族はそうでしょう。数か月、数年間のみの関係というわけにはいきません。家族の関係で自分の心を偽り続けていると、心が擦り減ってしまうでしょう。

 この物語の主人公のように、相手のためと思うがあまり、自分をずっと責めているようであればなおさらです。

 それは相手にとっても自分にとっても良いことではありません。この物語でも、きっとお母さんも娘が自分のために何かを我慢している、思い詰めていると何となく気づいていて、娘との関係に悩んでいたのではないかと思います。

 自分の心に素直に行動するのはとても勇気がいると思います。関係が悪化してしまう可能性もあるでしょう。

 でも本心のままに本音で伝えてダメだったのであれば、家族や友人の場合は遠くに移り住むなど距離を離す、職場なら退職するということを、潔くできるのではないかと思います。その時はつらいかもしれませんが、ずっともやもやした気持ちを抱えて生きていくよりはきっと良いでしょう。

 そう簡単にはいかないと思うかもしれません。でも自分の心を偽ったままでは苦しい、前に進めないと感じたのであれば、勇気を出すことが必要だと思います。

 この物語の主人公も、母に気持ちを伝えられないままであったなら、高校で満足のいく演奏もできず、勉学も手につかず、つらい生活を送ることになっていたかもしれません。

 もし今あなたが自分の心を偽っていて、つらく感じているのなら、勇気を出して自分の心に素直に行動してみましょう。

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