『星屑鉄道の鉱石カフェ』(2)

  • 2025年8月21日
  • 小説
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 今日もお疲れさまでした。

 あなたは自分は中身がない、個性がない人間だと悩んでいませんか?
 今日はそんな人に見てほしい言葉を見つけてきました。

 架羽(かばね)メメ

推しを語っている君は間違いなく輝いていたよ

 蒼月海里(2024).『星屑鉄道の鉱石カフェ』株式会社マイクロマガジン社

 迷いをもつ人の前に現れる星屑鉄道。その車掌である架羽メメの言葉です。

<言葉についてのあらすじ>

 鈴木道子はアラサーのごく普通の会社員だ。

 普通・・・。普通であることが幸せだと言われるし、自分でも一理あるとも思っているが、同時にこのままでいいのかと焦る気持ちもあった。

 以前付き合っていた恋人に言われたある言葉が、今でも耳に残っている。


 「道子さんって虚無だよね」

 
 相手のことは未練も執着も何もない。
 それなのに中身がないという旨の、この指摘だけはいつまでも覚えていた。

 同級生は、着々と結婚したり出産したりしている。中には起業する人や、海外に移住する人もいた。

 自分は別にこれらを熱烈にしたいかというと、特にそうではない。

 そうなのだが、そんな鈴木にもある強い願望がある。

 「何かにはなりたいんだけどな・・・」

 結婚や出産をすれば、妻や親という役割になる。起業すれば社長になれるし、海外移住すればもう、海外に住んでいるというステータスが得られる。

 そんな何者かになりたかった。

 何者かになれば「虚無」ではなくなると思っていた。

 ぼんやり考えながら、仕事から帰る途中、会社の後輩である宮野に一緒に帰りたいと声をかけられた。

 彼女は20代半ばで、可愛らしいので男性社員からもよく声をかけられる。
 そして言うことはきっぱり言う、明るい子だった。

 でもなぜだろう。そんな子が、「虚無」な私と一緒に帰ってメリットがあるだろうか。

 宮野は鈴木のスマホの待ち受けを見てしまったと話した。

 鈴木のスマホの待ち受けは推しのアイドルの写真だ。

 虚無と言われた鈴木だが、唯一の趣味があり、それは推し活だった。
 休日はライブに行ったりグッズを買いに行ったりしている。

 推しのことを考えている時だけは、自分の空虚さを埋めることができたのだ。

 話を聞くと、そのアイドルのことを宮野も好きみたいで、それで鈴木に声をかけたらしい。
 二人は高校生のようにキャッキャと推しについて語り合った。

 鈴木はともに語れる仲間ができたこと、そして何より自分より輝いている宮野と共通の話題があったのが嬉しかった。

 推しのことを語っている時は、何者かになれている気がした。

 宮野さんは待ち受けを推しにしないのか聞いてみると、「結婚を前提とした恋人がいるため、できない」と話す。

 
 いきなり、突き放されたと感じる。
 宮野は鈴木がなっていない何者かになろうとしている。

 駅に着き、別れ際に「今度一緒に推しのライブに行きませんか?」と宮野に誘われた。

 しかし鈴木はつれない返事をしてしまった。去り際に宮野は寂しそうな顔をしていた。

 同じアイドル好きの、自分より人生経験の浅い彼女が、自分にはないものを持っているということが生々しくて、自分が虚無だと言われているようで、素直に返事ができなかったのだ。

 駅で帰りの電車を待っているとホームに見たことのない蒸気機関車がやってきた。

 気が付くと、鈴木はその列車の中におり、外を見るとその列車は空に上がっていっていた。

 その不思議な列車の中で白い制服を着た車掌に出会う。

 車掌は言う「星屑鉄道にようこそ。ここは迷える人たちのための列車さ」
 車掌の名前は架羽(かばね)メメというらしい。

 「この星屑鉄道に乗れたということは悩みがあるはず。話してほしい」というメメに対して鈴木は悩みを打ち明ける。

 他のみんなみたいに輝きたいというほどではないが、何者かにはなりたいこと。
 このまま年を取っていくと思うと、不安になってくること。

 メメは言う「無理して何者かになる必要なんてあるのかなあ」

 鈴木は答える「私にはある。何者でもないのは、落ち着かない」

 鈴木の思う何者かについて、深く突き詰めていく。

 妻や母などの役割や、社長などの肩書は、他人との関係や他人の評価に依存したものだ。
 誰かにとっての妻や母、社員から見た社長である。

 そういうように自分の価値を、他者に委ねてもいいのか

 他の誰かがあってこその何者かでもいいのか

 いや、それは違う気がする。

 では、自分のなりたい姿はないのか・・・。

 他人との関係や評価に依存しないもの・・・。

 でも自分には夢がない。

 夢や目標がある人を見るとキラキラしていて、とても美しいと思う。

 「私は夢を持つことを、夢見てたのかな・・・」

 考えていると推しの顔が浮かび、鈴木はメメに推しの写真を見せた。

 そしてメメに推しのことを語った。

「本業はアイドルだけど、音楽もダンスもやって、バラエティー番組にも今度出るし、動画チャンネルでも色んなことに挑戦してて・・・」

 メメが興味を持って聞いてくれるので、つい夢中になって話してしまった。

 「でもふとした時に我に返るの。推しは頑張っているのに私は・・・」

 そこでメメが静止して言う。
 「自分と相手を比べないで。スペックが違いすぎるとか、そういう話じゃない。月とスッポンって言葉があるよね。大きさで言うとスッポンは小さいけど、月は食べられない。そんな時、空腹を満たせるのはスッポンでしょ?」

 メメは続ける。

「同列にして比べるのが間違ってる。君は自分が輝いていないと思ってるから不安で比べてると思うけど、それは間違いだ」

 間違いとはどういうことかと首を傾げる鈴木にメメは言う。

 
 「推しを語っている君は間違いなく輝いていたよ」

 
 推し活から出た輝きでも、誰かを推す君が輝いているのならいいんだよ。
 推してる子自身に依存しているわけじゃないんだし。
 推し活をしている自分を推すってどう?それだと依存ではないし。

 それらのメメの言葉に背中を押される。

 自分推しっていうのも、いいかもしれない。

 自分は輝きなんて持っていないと思っていた。

 だが、推しが放つ光を受けて自分は輝くことができるのだ。

 鈴木の迷いが消えて、星屑鉄道は地上へと降り立った。

 後日、宮野にも推しを語る鈴木はとても輝いていたと伝えられる。
 そしてそんな生き生きとした鈴木を他のみんなに知ってほしいと思ったらしい。

 
 今度の推しのライブについて宮野と語る鈴木は、キラキラと輝いていた。

 

<まとめ>

 人の特性を表す時に陽キャ、陰キャという言葉を使うことがありますが、それ以外にも無キャという言葉もあるようです。

 陽キャは明るい、快活、社交的な人で陰キャは大人しい、静かで内向的な人のこと。
 そして無キャはその間の、いわば普通、特徴のない、無個性な人のことを言うようです。

 ネットで調べてみても、自分が無キャで人生がつまらない、他者と関われないという悩みは少なくないようです。

 鈴木と同じように『自分は虚無』『何者かになりたい』と思い悩んでいるのでしょう。

 まずは他者の評価に委ねた何者かでも良いのか、それとも他者に依存しない、自分が納得する、自分らしい何者かになりたいのか、整理してみましょう

 目指すものがはっきりさせることで、なりたい自分に近づきやすくなります。

 鈴木は目標がなくても、推し活という自分の好きなものがはっきりしていました。
 このような場合は、自分が立派な個性ある何者かであるということに自分で気づいていないだけかもしれません。

 周りの人と比べて、自分はあの人よりこれもない、あれもないと考えすぎて自分が何も持っていない虚無のようだと錯覚しているだけかもしれません

 自分の好きなことを周りに出すのは勇気がいる場合もあるでしょう。

 しかし思い切って自分はこれが好きと公言してみれば、同志が見つかるかもしれません。

 自分の好きなものに夢中になっているあなたは、間違いなく虚無ではありません。

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